I am at home, reading. JPN
「読む」ことは身体的・芸術的な実践だ、としてみる。
2016年9月に修士課程が始まってから、「読む」という行為は僕の日常の実践の中心として存在している。正直なところ、それまでは英語で本なんて一冊も読んだことがなかったので、スラスラ読めるはずもなく、最初は「読む」のがとてもしんどかった。その辛さを乗り越えるために、「Slow reading」を僕の実践の一つとして主張することにした。時には1時間かけても4、5ページしか進まないし、何を言ってるんだかまともに飲み込めていなかったりするのだが、それでもよしとして、そういう時は丸一日ゆっくり読むだけの時間を自分に課すことにした。コレオグラファーならスタジオで動け、と言われがちだけど、「読む」ことは赦されている、そして「遅い」ことだって赦されているのだ。これは生産の制度に対する一つのレジスタンス(抵抗)の実践でもある。
2017年4月7日、僕の住むストックホルムの中心部でテロ(とされる)事件が起きて、街全体がざわざわしていた。世界中にニュースは伝わり、沢山の人からメッセージをもらって、心配してくれていたようだったので、自分は大丈夫、とでも言うかのようにfacebookに「I am at home, reading.」と書いた。123人がこの投稿に「いいね!」した。
今回の作品では、修士課程に入ってから今までに読んだ本や文献を一つの部屋に並べ、参加者と「読む」という実践についての会話を促し、また参加者同士がこれらのインプットからどういう「ダンス」が生まれるのかについての想像を膨らませてくれればと思い、この「場」を作品として発表することにした。僕の思考プロセスへのアクセス・介入の可能性が開かれる中で、参加者の思惟が文章(テキスト)の織りなすメッシュワークと相互に働きかけ、「ワーク・イン・プロセス」という関係性の「組・織」が浮上する。この作品は始まりも終わりもなければ、観客、演者、筋書き、時間の構成さえあらかじめ設定されてはいない。そこには、ただ持続としてのプロセスのみが一つの枠組みとして作品を成立させている。
この単純だが開かれたプロセスの提示、テキストが媒介するコミュニケーションの刺激によって、新自由主義的な生産の制度に対して疑問が投げかけられ、同時にアートの言説における様々な危機感が露呈する事となる。
部屋には、買ったけどまだ読んでいない本も一緒に展示した。積ん読で、いい感じにインテリア化している様は僕の家での現実と全く同じ。けど一見して飾りにしか見えない本たちが、僕がどういう道筋を辿って行こうとしているかを如実に語っているのではないか、という気がする。
Welcome to my slow… reading… room…
2017年5月 児玉北斗
本たちと一緒に、小さなアイデアを可視化した二つの映像作品を展示した。また、参加者にはできれば僕に本を薦めてもらった。参加者の思考のネットワークと僕の思考のネットワークが重なる場にあるのがこれらのテキストなのかもしれない。参加者からの推薦図書は以下の通り。
- Moby Dick by Herman Melville
- Cinnamon Shops by Bruno Schulz
- For one more day by Mitch Albom
- Poetics of relations by Edouard Glissant
- Chaos, territory, art by Elizabeth Grosz
- Cinema 1: The Movement Image by Gilles Deleuze
- On Tarrying by Joseph Vogl
- How to do things with art by Dorothea von Hantelmann
- Introduction for Walter Benjamin’s Illumination by Hannah Arendt
- Orality and Literacy by Walter J Ong
- The infinite conversation by Maurice Blanchot
- Poetics of contemporary dance by Laurence Louppe
そして、展示した映像作品は以下の二つ。前者は時間・持続の効果によって、後者は否定の前提として潜む肯定をあぶりだす事で、シニフィエとシニフィアンの意味作用を曖昧なものへと変化させる。イメージと言説の関係性を扱うコレオグラフィーという機械を検証するための手段として将来、作品に展開させる事ができればと考えている。
- “Slow text” (video, 9 min.)
- “This is not…” (video, 10 min.)